あの出来事から気付けば1か月が過ぎていた。
直後のレッスンは先生のスケジュールの都合でどうしても出来ないのだと連絡があったと
ね~みから伝え聞いた。
「O先生もお忙しい方だから…仕方ないわね。あなたに直接代わってお話されるか聞いたら、また時間のある時にっておっしゃっていらしてね。あなたが元気かと気にしていらしたわ。」
ね~みは申し訳なさそうに言った。
「それにしてもわたくし鼻が高いわ。あなたのような天才ピアニストが家にいてくれるんですもの!こんどO先生仕込みのレッスンをわたくしにしてもらおうかしら…おほほ…」
「奥様は素質がおありですよ。私はずっと奥様のピアノを近くで聞いてきましたからわかります。」
「ま、天才ピアニストにそんな事言ってもらえるなんて、光栄ですわ!また練習しなくてはね!」
「ええ、もちろんです。」
スベルマンはニッコリと微笑んでね~みに答えた。
だがその笑みの裏に鉛のような重い塊があるのを振り払うことはできなかった。
スベルマンの美しいヘーゼルアイが悲しみに包まれて曇っている。
何をしていてもふと浮かんでしまうのが先生の事だった。
あの時、自分の感情を抑えることができなかった…。深い後悔。
あれからスベルマンは来る日も来る日もある曲を練習していた。
先生はスケジュールの都合がつかないと、もう何か月も来ていなかった。
そんな日が淡々と続いた、ある日
スベルマンは郵便受けの中に自分宛ての手紙があるのを見つけた。
スベルマンの胸は高鳴り、恐る恐る差出人の名前を確認した。

Oより
そこには紛れもなく先生の名前があった。
スベルマンは急いで自分の部屋に戻ると誰にも見られないようにドアを閉め
震える手で封を開けていった。
スベルマンさんへ
先日は急に帰ってしまってごめんなさい。
驚かせてしまったでしょう。
反省しています。
それにあの後レッスンできなくて申し訳ありません。
スケジュールが立て込んでいるのはそうなのですが
一番の理由は主人になるべくドイツ国内で活動して欲しいと請われたからです。
…いえ、それが本当の理由ではありません。
私はあなたが怖かったのです。
そしてそんなあなたにこれ以上惹かれていく自分が怖かったのかもしれません。
だから、もう私はあなたを教える事はできません。
あなたのような将来のある、有望な若者を潰してしまいかねないですもの。
あなたのお気持ちを受け止めることはできないけれど
離れた場所でいつもあなたを応援しています。
あなたの魅力、あなたの音楽は素晴らしい、
それは私が、そしてあなたの音楽を聴く全ての人々が保証できます。
いつかあなたは私を超えていくでしょう。
それでは、お体をお大事になさって。
さようならは書きません。
いつか、また逢う日まで。
~Oより~
それを読み終えた時
スベルマンの瞳から大粒の涙が溢れていた。
膝をつき、手紙を握りしめ、生まれて初めてだろう、あまりの哀しさに胸が押し潰されそうになって
声を上げて泣いていた。
━─━─━─━─━━─━─━─━─━─━─━
ピアノ室からスベルマンの演奏が聴こえてきた。
「あら、今日も練習してるのね、何の曲かしら…なんていうのかとても…」
ね~みは何かにいざなわれるようにピアノ室に向かった。
そこにはピアノに向かって話しかけるかのようなスベルマンの姿があった。
その姿はね~みには神々しいとさえ思えた。
それは窓から差し込む月の光に、くっきりと映し出されるスベルマンとピアノとの対話であった。
※この物語はフィクションです
直後のレッスンは先生のスケジュールの都合でどうしても出来ないのだと連絡があったと
ね~みから伝え聞いた。
「O先生もお忙しい方だから…仕方ないわね。あなたに直接代わってお話されるか聞いたら、また時間のある時にっておっしゃっていらしてね。あなたが元気かと気にしていらしたわ。」
ね~みは申し訳なさそうに言った。
「それにしてもわたくし鼻が高いわ。あなたのような天才ピアニストが家にいてくれるんですもの!こんどO先生仕込みのレッスンをわたくしにしてもらおうかしら…おほほ…」
「奥様は素質がおありですよ。私はずっと奥様のピアノを近くで聞いてきましたからわかります。」
「ま、天才ピアニストにそんな事言ってもらえるなんて、光栄ですわ!また練習しなくてはね!」
「ええ、もちろんです。」
スベルマンはニッコリと微笑んでね~みに答えた。
だがその笑みの裏に鉛のような重い塊があるのを振り払うことはできなかった。
スベルマンの美しいヘーゼルアイが悲しみに包まれて曇っている。
何をしていてもふと浮かんでしまうのが先生の事だった。
あの時、自分の感情を抑えることができなかった…。深い後悔。
あれからスベルマンは来る日も来る日もある曲を練習していた。
先生はスケジュールの都合がつかないと、もう何か月も来ていなかった。
そんな日が淡々と続いた、ある日
スベルマンは郵便受けの中に自分宛ての手紙があるのを見つけた。
スベルマンの胸は高鳴り、恐る恐る差出人の名前を確認した。

Oより
そこには紛れもなく先生の名前があった。
スベルマンは急いで自分の部屋に戻ると誰にも見られないようにドアを閉め
震える手で封を開けていった。
スベルマンさんへ
先日は急に帰ってしまってごめんなさい。
驚かせてしまったでしょう。
反省しています。
それにあの後レッスンできなくて申し訳ありません。
スケジュールが立て込んでいるのはそうなのですが
一番の理由は主人になるべくドイツ国内で活動して欲しいと請われたからです。
…いえ、それが本当の理由ではありません。
私はあなたが怖かったのです。
そしてそんなあなたにこれ以上惹かれていく自分が怖かったのかもしれません。
だから、もう私はあなたを教える事はできません。
あなたのような将来のある、有望な若者を潰してしまいかねないですもの。
あなたのお気持ちを受け止めることはできないけれど
離れた場所でいつもあなたを応援しています。
あなたの魅力、あなたの音楽は素晴らしい、
それは私が、そしてあなたの音楽を聴く全ての人々が保証できます。
いつかあなたは私を超えていくでしょう。
それでは、お体をお大事になさって。
さようならは書きません。
いつか、また逢う日まで。
~Oより~
それを読み終えた時
スベルマンの瞳から大粒の涙が溢れていた。
膝をつき、手紙を握りしめ、生まれて初めてだろう、あまりの哀しさに胸が押し潰されそうになって
声を上げて泣いていた。
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ピアノ室からスベルマンの演奏が聴こえてきた。
「あら、今日も練習してるのね、何の曲かしら…なんていうのかとても…」
ね~みは何かにいざなわれるようにピアノ室に向かった。
そこにはピアノに向かって話しかけるかのようなスベルマンの姿があった。
その姿はね~みには神々しいとさえ思えた。
それは窓から差し込む月の光に、くっきりと映し出されるスベルマンとピアノとの対話であった。
※この物語はフィクションです
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