2016.09.12
使用人スベルマンの秘密のピアノ日記 volume3
明日はあの気難しい夫が帰宅する日だわ。
家中の掃除をぬかりなく、完璧に。
専属スタイリストに任せるけれど、身だしなみは念入りに。
髪型は今日美容師にお願いしてるから大丈夫ね。
ロマネ・コンティは手配済み。
コンサートの手はずは…
ね~みは頭の中で明日の段取りを考えながら外出着に着替えていた。
「ああスベルマン!頼みたいことがあるのよ」
ね~みはスベルマンを呼び、明日の夫の帰宅に合わせてサロンでコンサートを開くので
自分の外出中に部屋を整えておくようにと申し付けた。
「かしこまりました。」
ね~みを見送ると、スベルマンはサロンに足を踏み入れた。
言いつけ通り、サロンの掃除の後客用の椅子などをコンサート用に並べ、テーブルや調度品などの不具合が無いか確認し、ピアノを磨いた。
鏡のように自分の顔が映り込んだピアノがまるで自分の手の中にあるように感じる。
一通りのチェックを終え、ふと時計に目をやると、調律師が来るまでにまだ時間があった。
目の前の憧れの素晴らしいグランドピアノ。
スベルマンは震える手でピアノの蓋を開けると、
椅子に腰かけた。
(弾く訳じゃない。ピアノの音の確認をするだけだ…)
心の中で言い訳をする。
音の確認などではないのは、自分が一番良くわかっていた。
あれだ、あの、楽譜に書いてあった音符だ。
自分にも弾ける…のだろうか?
そしてスベルマンは曲の最初の一音を鳴らした。
その音は、想像していたよりずっと深く熱い響きだった。
一音一音、響きを確かめながら音を鳴らしていく。
夢にまで見た、自分の手で奏でる音だ。
(奥様の音とは違う・・・!!)
スベルマンは喉の渇いた子供が水を飲むように、貪るように音を拾った。
(この音だ・・・!!)

「お前は誰だ!!ここで何をしている!!」
あまりに突然の怒声にスベルマンは全身が硬直した。
恐る恐る声の方を振り返ると、写真で見たこの家の主が立っていた。
「ご、ご主人様!!私は…スベルマンと申します。ご挨拶が遅れましたこと、お許しください。」
驚きながら椅子から立ち上がり、慌てて頭を下げると、主が言った。
「あぁ、君が新しく入った使用人か。そういえば妻がそんな事を言っていたな」
そう言うと、主はつかつかとピアノの方へ歩み寄ってきた。
整っているがどこか冷たい眼差しを感じた。
そしてピアノの屋根の上を指で擦った。
その指をちらと一瞥しながら話を続けた。
「ふむ、手入れは怠っていないようだな。明日のサロンコンサートの準備かね?」
主は指先を見ながら尚も続ける。
「私はね、かねがね一流のクラシックしか音楽とは認めない主義だ。
それには一流の楽器が必要だ。もちろん、このピアノもそれを弾くピアニストもだ。わかるかね?」
「このピアノに触れる資格を持つのは、一流のピアニストと、妻だけだ」
スベルマンはまるで蛇ににらまれたカエルのように
椅子から立ち上がった姿勢のまま硬直していた。
「はい、もちろん、存じております」
震える声で返事をする。
まるで自分のこれからしようとしていた悪事が
すべてこの主に悟られているのでは?と。
「今、何をしようとしていた?ここで」
主は冷たい眼差しをそのままに、スベルマンを問い詰めた。
「………」
スベルマンは答に詰まった。
弾こうとしていたのだ。
楽譜を見て、頭の中で素晴らしい音楽が鳴ったのだ。
その音楽をどうしても確認したかったのだ。この耳で。この手で。
だがなんと答えればいいのだろう。
しばし重苦しい時間が流れた。
スベルマンはようやく搾り出すような声を発した。
「…弾いて確認したかったんです。」
「何をだ?」
「頭の中の…音楽を…」
「音楽?…ふむ。では…今…私に聞かせてみろ」
心臓は破れそうに鼓動を打っていたし、
手も足も震えている。
顔が青ざめ、唇が真っ白になっているのが容易に想像できる。
だが、主からの命令であれば、弾かなければならない。
頭の中の音を響かせなければならない。
スベルマンは主の見ている前で震える手で最初の音を弾いた。
そして、サロンにバラードが響き渡った。
※このお話はフィクションです。
…もしかしたら続く…
かも…?
家中の掃除をぬかりなく、完璧に。
専属スタイリストに任せるけれど、身だしなみは念入りに。
髪型は今日美容師にお願いしてるから大丈夫ね。
ロマネ・コンティは手配済み。
コンサートの手はずは…
ね~みは頭の中で明日の段取りを考えながら外出着に着替えていた。
「ああスベルマン!頼みたいことがあるのよ」
ね~みはスベルマンを呼び、明日の夫の帰宅に合わせてサロンでコンサートを開くので
自分の外出中に部屋を整えておくようにと申し付けた。
「かしこまりました。」
ね~みを見送ると、スベルマンはサロンに足を踏み入れた。
言いつけ通り、サロンの掃除の後客用の椅子などをコンサート用に並べ、テーブルや調度品などの不具合が無いか確認し、ピアノを磨いた。
鏡のように自分の顔が映り込んだピアノがまるで自分の手の中にあるように感じる。
一通りのチェックを終え、ふと時計に目をやると、調律師が来るまでにまだ時間があった。
目の前の憧れの素晴らしいグランドピアノ。
スベルマンは震える手でピアノの蓋を開けると、
椅子に腰かけた。
(弾く訳じゃない。ピアノの音の確認をするだけだ…)
心の中で言い訳をする。
音の確認などではないのは、自分が一番良くわかっていた。
あれだ、あの、楽譜に書いてあった音符だ。
自分にも弾ける…のだろうか?
そしてスベルマンは曲の最初の一音を鳴らした。
その音は、想像していたよりずっと深く熱い響きだった。
一音一音、響きを確かめながら音を鳴らしていく。
夢にまで見た、自分の手で奏でる音だ。
(奥様の音とは違う・・・!!)
スベルマンは喉の渇いた子供が水を飲むように、貪るように音を拾った。
(この音だ・・・!!)

「お前は誰だ!!ここで何をしている!!」
あまりに突然の怒声にスベルマンは全身が硬直した。
恐る恐る声の方を振り返ると、写真で見たこの家の主が立っていた。
「ご、ご主人様!!私は…スベルマンと申します。ご挨拶が遅れましたこと、お許しください。」
驚きながら椅子から立ち上がり、慌てて頭を下げると、主が言った。
「あぁ、君が新しく入った使用人か。そういえば妻がそんな事を言っていたな」
そう言うと、主はつかつかとピアノの方へ歩み寄ってきた。
整っているがどこか冷たい眼差しを感じた。
そしてピアノの屋根の上を指で擦った。
その指をちらと一瞥しながら話を続けた。
「ふむ、手入れは怠っていないようだな。明日のサロンコンサートの準備かね?」
主は指先を見ながら尚も続ける。
「私はね、かねがね一流のクラシックしか音楽とは認めない主義だ。
それには一流の楽器が必要だ。もちろん、このピアノもそれを弾くピアニストもだ。わかるかね?」
「このピアノに触れる資格を持つのは、一流のピアニストと、妻だけだ」
スベルマンはまるで蛇ににらまれたカエルのように
椅子から立ち上がった姿勢のまま硬直していた。
「はい、もちろん、存じております」
震える声で返事をする。
まるで自分のこれからしようとしていた悪事が
すべてこの主に悟られているのでは?と。
「今、何をしようとしていた?ここで」
主は冷たい眼差しをそのままに、スベルマンを問い詰めた。
「………」
スベルマンは答に詰まった。
弾こうとしていたのだ。
楽譜を見て、頭の中で素晴らしい音楽が鳴ったのだ。
その音楽をどうしても確認したかったのだ。この耳で。この手で。
だがなんと答えればいいのだろう。
しばし重苦しい時間が流れた。
スベルマンはようやく搾り出すような声を発した。
「…弾いて確認したかったんです。」
「何をだ?」
「頭の中の…音楽を…」
「音楽?…ふむ。では…今…私に聞かせてみろ」
心臓は破れそうに鼓動を打っていたし、
手も足も震えている。
顔が青ざめ、唇が真っ白になっているのが容易に想像できる。
だが、主からの命令であれば、弾かなければならない。
頭の中の音を響かせなければならない。
スベルマンは主の見ている前で震える手で最初の音を弾いた。
そして、サロンにバラードが響き渡った。
※このお話はフィクションです。
…もしかしたら続く…
かも…?
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