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使用人スベルマンの秘密のピアノ日記 volume3

明日はあの気難しい夫が帰宅する日だわ。
家中の掃除をぬかりなく、完璧に。
専属スタイリストに任せるけれど、身だしなみは念入りに。
髪型は今日美容師にお願いしてるから大丈夫ね。
ロマネ・コンティは手配済み。
コンサートの手はずは…

ね~みは頭の中で明日の段取りを考えながら外出着に着替えていた。

「ああスベルマン!頼みたいことがあるのよ」
ね~みはスベルマンを呼び、明日の夫の帰宅に合わせてサロンでコンサートを開くので
自分の外出中に部屋を整えておくようにと申し付けた。

「かしこまりました。」
ね~みを見送ると、スベルマンはサロンに足を踏み入れた。
言いつけ通り、サロンの掃除の後客用の椅子などをコンサート用に並べ、テーブルや調度品などの不具合が無いか確認し、ピアノを磨いた。
鏡のように自分の顔が映り込んだピアノがまるで自分の手の中にあるように感じる。
一通りのチェックを終え、ふと時計に目をやると、調律師が来るまでにまだ時間があった。
目の前の憧れの素晴らしいグランドピアノ。



スベルマンは震える手でピアノの蓋を開けると、
椅子に腰かけた。

(弾く訳じゃない。ピアノの音の確認をするだけだ…)

心の中で言い訳をする。
音の確認などではないのは、自分が一番良くわかっていた。

あれだ、あの、楽譜に書いてあった音符だ。

自分にも弾ける…のだろうか?


そしてスベルマンは曲の最初の一音を鳴らした。
その音は、想像していたよりずっと深く熱い響きだった。

一音一音、響きを確かめながら音を鳴らしていく。

夢にまで見た、自分の手で奏でる音だ。

(奥様の音とは違う・・・!!)

スベルマンは喉の渇いた子供が水を飲むように、貪るように音を拾った。

(この音だ・・・!!)


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「お前は誰だ!!ここで何をしている!!」

あまりに突然の怒声にスベルマンは全身が硬直した。

恐る恐る声の方を振り返ると、写真で見たこの家の主が立っていた。 

「ご、ご主人様!!私は…スベルマンと申します。ご挨拶が遅れましたこと、お許しください。」

驚きながら椅子から立ち上がり、慌てて頭を下げると、主が言った。

「あぁ、君が新しく入った使用人か。そういえば妻がそんな事を言っていたな」
 
そう言うと、主はつかつかとピアノの方へ歩み寄ってきた。
整っているがどこか冷たい眼差しを感じた。
そしてピアノの屋根の上を指で擦った。
その指をちらと一瞥しながら話を続けた。

「ふむ、手入れは怠っていないようだな。明日のサロンコンサートの準備かね?」
主は指先を見ながら尚も続ける。

「私はね、かねがね一流のクラシックしか音楽とは認めない主義だ。
それには一流の楽器が必要だ。もちろん、このピアノもそれを弾くピアニストもだ。わかるかね?」
「このピアノに触れる資格を持つのは、一流のピアニストと、妻だけだ」

スベルマンはまるで蛇ににらまれたカエルのように
椅子から立ち上がった姿勢のまま硬直していた。

「はい、もちろん、存じております」

震える声で返事をする。

まるで自分のこれからしようとしていた悪事が
すべてこの主に悟られているのでは?と。

「今、何をしようとしていた?ここで」

主は冷たい眼差しをそのままに、スベルマンを問い詰めた。

「………」
スベルマンは答に詰まった。

弾こうとしていたのだ。
楽譜を見て、頭の中で素晴らしい音楽が鳴ったのだ。
その音楽をどうしても確認したかったのだ。この耳で。この手で。
だがなんと答えればいいのだろう。

しばし重苦しい時間が流れた。

スベルマンはようやく搾り出すような声を発した。

「…弾いて確認したかったんです。」

「何をだ?」

「頭の中の…音楽を…」

「音楽?…ふむ。では…今…私に聞かせてみろ」



心臓は破れそうに鼓動を打っていたし、
手も足も震えている。
顔が青ざめ、唇が真っ白になっているのが容易に想像できる。
だが、主からの命令であれば、弾かなければならない。
頭の中の音を響かせなければならない。

スベルマンは主の見ている前で震える手で最初の音を弾いた。




そして、サロンにバラードが響き渡った。













※このお話はフィクションです。



…もしかしたら続く…


かも…?


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使用人スベルマンの秘密のピアノ日記 volume2

以下、スベルマンの日記より。


○月×日 
今日から初めての仕事を任された。
奥様が毎日ピアノの練習をされているサロンで
奥様の練習を聞いて感想を述べたり、楽譜を整理したりする仕事だ。
その前にサロンにあるピアノについての注意点を教わった。
このピアノに触れる事は特別な許可が無い限り、一流のピアニストと、奥様だけに許されている事。

私はピアノを弾いたことは無いが、ピアノの音を聞くのは好きだ。
今日は奥様の弾いている曲についての感想を伝えた。
右手と左手が別々の動きをしているのが大変驚きます、と述べた。

○月□日
昨日に引き続き、ピアノを聞く仕事が多かった。
話に聞けば、ここの家にあるピアノは大変値段の張るものらしい。
奥様によれば小さな家が買えるくらい?とか。
どおりで触れる事が許されない訳だ。
奥様はピアノの練習をいつも決まった時間にしている。
昼食を召し上がった後で、大変眠いと仰った。
時間を変えればよろしいのではと考えてしまった。

○月△日
奥様の練習の間、本棚にある楽譜を見てもいいと言われたので、手に取った楽譜をパラパラと見てみた。
音符は辛うじて読めるが、これを両手で弾くなど神業ではないだろうか?
ちなみに奥様の弾いてる曲の楽譜はとても音符の数が少ないようだ。
もしかしたら私にも弾けるのかもしれない…。

×月○日
相変わらず奥様は毎日ピアノの練習をしている。
練習の間私は他の楽譜を見ているが、段々と面白くなってきた。
なぜなら音符を見ると頭の中で音が鳴るようになってきたからだ。
奥様の弾いている曲の楽譜を毎日毎日見ていたら、
自然とそうなってきたようだ。
もちろん練習の最後に感想を述べる仕事は続いているのできちんと聞いているつもりだが。
実を言えば頭の中の「音」の方が興味がある。

×月×日
奥様のピアノの練習の仕事を始めてもう二ヶ月経った。
奥様はずっと「チューリップ」の練習をされていらっしゃるが
実は私の頭の中では違う曲が流れている。
だがそんな事は口が避けても言えない。
感想は徐々に「それらしい事を言っているだけ」になってきてしまった。
良心の呵責。

×月△日
私の心の中にある気持ちが芽生えてきた。
それは…この、目の前にある艶々したピアノを自らの手で弾いてみたい、
いや、触ってみたい、「自分の音」を出してみたい。
ピアノを弾くとはどんな感覚だろう?
そしてこの楽譜の音楽を両手で奏でてみたい。

×月?日
奥様のピアノを聞いていると、私の中に芽生えた気持ちがどんどん高まってくるのを感じる。
こんなにずっと同じ曲を練習しているということは、
ピアノを弾くというのは随分と難易度の高いことなのだろう。
その事を自分の手で確認してみたい。
音を出してみたい。
最近は練習中の音も上の空で聞いていて、心はすぐに手に持った楽譜の中に入り込んでしまう。
時には奥様の言葉も聞き逃してしまう事がある。
気をつけなければ。これは仕事なのだ。

×月@日
ここでこんな事を書くことになるとは。
私のピアノへの興味衝動は日毎に高まっていく。
今日、奥様が外出された時に、
私はピアノのあるサロンへ足を踏み入れてしまった。
良くないことだ。 
奥様の許可もないのに。
ピアノの前で心の中の葛藤に苛まされる。
決して触ってはいけない。
触れれば今まで押し殺してきた気持ちが必ずや溢れ出てしまうに違いない。
苦しい。
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@月○日
ピアノに触りたい。弾いてみたい。
奥様のピアノの音を聴いているのが段々苦しくなってきた。
まるで目の前にご馳走を置かれてお預けをされている犬になった気分だ。
何故こんな気持ちになってしまったのか?
ピアノの音を知らなかった2ヶ月前に戻りたい。
いや・・・・戻りたくない。


@月×日
とても悪いことをしてしまった。
どうしても欲求が抑えきれず、
奥様が外出中にまたピアノのサロンに入ってしまったのだ。
もちろん、ピアノには手を触れていない。
いや、正確にはピアノの鍵盤には、だ。
確か奥様の注意は「ピアノの鍵盤に触れない事」だったはずだ…。
毎日このピアノの音を聞いているのだから、音には毎日触れているのだ。
ピアノの蓋の上でピアノを弾く真似をするくらい、大丈夫なはずだ。
だがこの心の苦しさは更に酷くなっていく。
一体何故?


@月△日
遂にやってしまった。
ピアノの誘惑に勝てなかったのだ。
気がついたらピアノの前にいた。
そして鍵盤の蓋を開けていた。
抗えない衝動。
白と黒の美しい鍵盤。
譜面たてをいつも奥様がなさるように立てる。
そしていつも見ている楽譜をそこに立てかける。
美しい鍵盤の上に手を広げた。
私はこれから何をしようとしているのか。
もうこれ以上は恐ろしくて書けない。



…と、ここまで日記を読んでね~みはそっとそれを元の場所に戻した。

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使用人スベルマンの秘密のピアノ日記 volume1

ここは日本でも有数のセレブが居住する街、S。
どの家も豪奢な塀と門扉に囲まれ、セキュリティの高さを感じさせる。
そんな高級住宅街にセレブね~みの家はあった。

ここのところね~みは公私共に多忙の日々を送っていた。
家の中の雑務はもちろん使用人にある程度任せてはいるが
完全に任せきりと言う訳には行かない。
抱えている事業もほとんど名ばかりの役ではあったが多少顔を出したりする事もあった。
ピアニストの先生の海外公演に顔を出したり、社交界の付き合いや、もちろん自身のピアノの練習も欠かせない。

そんな中、一番信頼していた長年の使用人が暇を取る事になったのだ。
代わりに今月から新人の男性の使用人が入る事になった。

今までね~みの家に入る使用人は、新人という事は無かった。
今回は例外的に信頼の厚い使用人からの紹介で、
聞けば彼は大変気の毒な生い立ちであった。
何でも身寄りも無く施設で育ったのだが、稀に見る頭脳明晰・容姿端麗・そして性格の良さ。
彼は使用人で終わるのは正直勿体無いくらいの男なのだ。
ただ、彼には財力も、バックアップしてくれる人脈も無かった。

長年務めていた使用人があるチャリティーショーで歌を唄っていた彼を見て興味が湧き
話しかけたことから親交が始まったとの事であった。

ね~みは紹介された新しい使用人に向かって話しかけた。
手にした履歴書を眺めながらチラッとその若者の姿を見た。
「ねぇ、あなた、・・・お名前なんと仰ったかしら?」

ね~みの書斎のデスクの前にその若者は気をつけの姿勢を保ったまま立っている。
長身で細身の体躯、その顔はまるでギリシャ彫刻のようだ。そしてその目は美しいヘーゼル・アイであった。
若者はその目でね~みを見ながら
「シタディスワフ・スベルマンです」
と答えた。
流暢な日本語である。
「日本でお生まれになったの?ああ、もちろん大体の事情は前の使用人から聞いているけれど…」

「ええ、両親ともユダヤ系ポーランド人でしたが、日本には仕事の関係で住んでおりました。」
そう答えた時、彼の目に言い様の無い深い悲しみが垣間見えた気がした。

「そうだったの。今まで大変なご苦労がおありだったようね。」
「もう、20年以上前のことですので…記憶らしい記憶は残っていないんです。」

まだ若いというのに、過酷な生い立ちが彼の心を老成させたかのようであった。
今時のテレビなどで見る同世代の若者とは醸し出す雰囲気が全く違うのだ。
物事に動じないように見える静かな佇まい。
彼の回りにはある種のオーラのようなものが感じられた。

そしてこの日から彼はこの邸宅の使用人として働くことになったのだ。

スベルマンの仕事振りは素晴らしく、1説明すれば10を理解し、ね~みの要望を完璧にこなすようになった。

そうして数ヶ月が過ぎた。

明日は特別な日だ。
なぜならね~みの夫、つまりこの家の主が海外出張から帰宅する日なのだ。
主は普段は仕事で海外に出ていることが多いが
2~3ヶ月に1度は日本に戻ってくる。
 
主についての注意や対応の仕方については
以前の使用人からはもちろん、ね~みからも説明は受けていた。

それによると、主は大変気難しく、少しのことで機嫌を損ねることがあるようだ。
潔癖性の気があり、家の中は塵1つ無い状態を保つのがベストである。
音楽鑑賞が趣味で本物を求める。
音楽は超一流のクラシックに限る。
仕事の話は機嫌が悪くなる事が多いので避けること。
ロマネ・コンティを嗜むのでディナーには必ず用意しておくこと。

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プロフィール

ね~み♪

Author:ね~み♪
子供の頃習っていたピアノ。
2013年より25年ぶりに再開、
2014年3月より先生について習い始めました。
夫と二人の子供がいるアラ50です。

※管理人が不快に思うコメントがありましたら予告なく削除させていただきます。


※限定記事について
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