2016.12.22
Intermezzo~1.Andante teneramente
「…インテルメッツォ…ですね…」
スベルマンはまだ涙の乾いていない頬を手で拭いながら掠れた声でそう呟いた。
もちろんこの曲は以前に何度か聞いたことがあった。
その時も綺麗な曲だなとは思ったがそれ以上の何かを感じる事はなかった。
「…前にも聞いたことがあります…でも…上手く言えないけれど…先生の演奏は全然違う…」
それは普段はあまり人前で感情を表さない印象のあるスベルマンの、初めての感情の表出だったかもしれない。
「こんな…インテルメッツォは初めて聞きました…」
先生はにっこりと微笑みながら
「そう、あなたにこの曲の何かが伝わったのね、良かったわ
嬉しいわ。この曲、気に入ったようね?こっちへいらっしゃい」
と、ピアノの椅子を空け、手招きをした。
スベルマンは言われるがまま椅子に腰かけ、目の前に立てられたインテルメッツォの楽譜に向かった。
先生が横にぴったりと付けた椅子に座って二人で1つの楽譜に向かい合った。
「この曲はね、ブラームスの最晩年の作品で、シューマンの妻であるピアニストのクララに献呈されたものなの。
ブラームスはシューマンを作曲家として尊敬していたし、クララの事は素晴らしいピアニストとして敬愛していた、
と言われているわ。
師と仰いでいたシューマンが亡くなってからは、クララを精神面・経済面で支えようとしていた。」
「ブラームスはクララに対して敬愛以上の感情があったとも言われているわね。そしてクララも…」
と、ここまで話して先生が少し狼狽えたような気がした。

「さあ…技術的にはそれほどの技巧は必要ない曲かもしれないけれど、精神的な内面をどう表現していくのか?
その点に気を付けて弾いてみて下さる?」
何かを焦るかのように先生はスベルマンに弾くことを促した。
スベルマンにとってはいともたやすく弾きこなせるであろう曲。
彼は楽譜をちらと見て、言われるがままに冒頭を弾き始めた…
「待って、そこはそんなに乱暴なタッチで弾くところではないでしょう?」
先生がスベルマンの弾いている手を上からそっと抑えた。
その時だった、スベルマンは感情が抑えきれなくなり一瞬ではあったが先生の手を強く掴んでしまった。
「…!!」
驚いてスベルマンの顔を見つめる先生。
すぐに手を離したスベルマンだったが、自分の今した事が信じられないといった表情で俯いてしまった。
「ごめんなさい、わたくし今急用を思い出してしまったわ。少し早いけれど今日はレッスンを終わらせてもらうわね。」
「先生、まって…」
先生はそう言い残すとスベルマンの静止も聞かず慌てて身支度を整え、部屋から出て行った…。
(なんて事を!なんて…事を…!)
一人取り残された部屋でスベルマンは激しい後悔に苛まれた。
(違う、そんなつもりじゃなかった。先生を困らせるつもりじゃなかった…)

スベルマンはまだ涙の乾いていない頬を手で拭いながら掠れた声でそう呟いた。
もちろんこの曲は以前に何度か聞いたことがあった。
その時も綺麗な曲だなとは思ったがそれ以上の何かを感じる事はなかった。
「…前にも聞いたことがあります…でも…上手く言えないけれど…先生の演奏は全然違う…」
それは普段はあまり人前で感情を表さない印象のあるスベルマンの、初めての感情の表出だったかもしれない。
「こんな…インテルメッツォは初めて聞きました…」
先生はにっこりと微笑みながら
「そう、あなたにこの曲の何かが伝わったのね、良かったわ
嬉しいわ。この曲、気に入ったようね?こっちへいらっしゃい」
と、ピアノの椅子を空け、手招きをした。
スベルマンは言われるがまま椅子に腰かけ、目の前に立てられたインテルメッツォの楽譜に向かった。
先生が横にぴったりと付けた椅子に座って二人で1つの楽譜に向かい合った。
「この曲はね、ブラームスの最晩年の作品で、シューマンの妻であるピアニストのクララに献呈されたものなの。
ブラームスはシューマンを作曲家として尊敬していたし、クララの事は素晴らしいピアニストとして敬愛していた、
と言われているわ。
師と仰いでいたシューマンが亡くなってからは、クララを精神面・経済面で支えようとしていた。」
「ブラームスはクララに対して敬愛以上の感情があったとも言われているわね。そしてクララも…」
と、ここまで話して先生が少し狼狽えたような気がした。

「さあ…技術的にはそれほどの技巧は必要ない曲かもしれないけれど、精神的な内面をどう表現していくのか?
その点に気を付けて弾いてみて下さる?」
何かを焦るかのように先生はスベルマンに弾くことを促した。
スベルマンにとってはいともたやすく弾きこなせるであろう曲。
彼は楽譜をちらと見て、言われるがままに冒頭を弾き始めた…
「待って、そこはそんなに乱暴なタッチで弾くところではないでしょう?」
先生がスベルマンの弾いている手を上からそっと抑えた。
その時だった、スベルマンは感情が抑えきれなくなり一瞬ではあったが先生の手を強く掴んでしまった。
「…!!」
驚いてスベルマンの顔を見つめる先生。
すぐに手を離したスベルマンだったが、自分の今した事が信じられないといった表情で俯いてしまった。
「ごめんなさい、わたくし今急用を思い出してしまったわ。少し早いけれど今日はレッスンを終わらせてもらうわね。」
「先生、まって…」
先生はそう言い残すとスベルマンの静止も聞かず慌てて身支度を整え、部屋から出て行った…。
(なんて事を!なんて…事を…!)
一人取り残された部屋でスベルマンは激しい後悔に苛まれた。
(違う、そんなつもりじゃなかった。先生を困らせるつもりじゃなかった…)

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